EFHWA(片端給電半波長アンテナ)
マグネットアースシートを使ったバーチカルで移動運用をおこなっているうちに、アース損失が気になり、また、見た目のよい移動運用(周囲対策!)を求めて作ったのがEFHWAです。EFHWAとはEnd Fed Half Wave Antenna(片端給電半波長アンテナ)の略です。
"ツェップアンテナ"と呼ばれることもありますが、ツェップアンテナはラダーを用いて給電します。EFHWAはラダーを使わないので、巷間言われているように"ツェップライクアンテナ"と呼ぶべきでしょう。
EFHWAを垂直にして、1/2λノンラジアルバーチカルとして使う
アースを使う1/4波長のバーチカルではなく、垂直ダイポールにした場合にはアースは不要となり、アース損失を考える必要がなくなります。しかし、ダイポールの場合、中央から給電する必要があり、同軸ケーブルをどう支持するかが問題になります。アンテナ端から給電するEFHWAの場合、この問題は解決しますが、ここはインピーダンスが高いため、どう給電するかが問題となります。
一般的には、LC共振回路を利用したり、ステップアップトランスにて高インピーダンスに変換して給電することが行われています。
当初はリンクコイルによってLC共振回路へ給電する方式を考えたのですが、うまくいかず、結局、L型回路によってインピーダンスをステップアップする方式に変更。アンテナに直流分が残留しないようLで接地する方式にしました。
回路定数
アンテナのインピーダンス(上図Zout)を5KΩと仮定しました。Zout>>Zinで、かつ目的周波数にてωL=1/ωCとすると、Zin・Zout≒ωL・1/ωC=(ωL)2となります。50Ωで給電する場合、ωL=1/ωC=約500Ωとなります。まずは本格的なアンテナがない18M帯用を作成することとし、L=4.4μH、C=17.6pFが求まります。
参考
RFマイクロエレクトロニクス 第2版 入門編(丸善出版、2014年)第2章
製作
コイルとコンデンサをそれぞれ製作(用意)します。ボビンに巻いたコイルと、コンデンサとしては同軸ケーブルの線間容量を用います。上の写真のとおり、最初からバーチカルで使うことを考えた外形です。
コイルボビン
最初は水道用のVPパイプを用いていましたが、材料の塩化ビニルは高周波特性がよくないため、今はグラスファイバー工研のグラスファイバーポール(直径38mm)を適当な長さに切って使っています。
コイルに使う線材
最初は、ごく普通に割いたACビニルコードを用いていましたが、やはり絶縁材が塩化ビニルであることが気になり、古河電工のポリエチレン被覆電線であるビーメックス(太さ2SQ)を使っています。ポリエチレンは同軸ケーブルの絶縁体にも使われていることからわかるとおり、高周波特性が良好です。
コイルの巻数について
断面が円形の中空コイルのインダクタンス(L)を求める数式は電磁気学の教科書に出ています。
L=KμΠr2N2/l
μ:透磁率、π:円周率、r:コイルの半径、N:コイルの巻数、l:コイルの長さ
この式から巻数を逆算できます。Kは長岡係数で、コイルの直径と長さの比から求まります。といっても、計算には完全楕円積分を解く必要があり、よって数表があらかじめ用意されています。ネット上でも見つかります。密巻きの場合、巻き数を変えるとコイルの長さが変わり、長岡係数も変わりますので、逆算といってもカット&トライで最適な値を見つけることになります。下の結論めいたところにも書いてありますが、HF帯ぐらいの周波数で使うコイルのインダクタンスは、たとえアマチュアの加工・製作でも、高周波特性の良いものを使えば、ほぼこの数式通りの結果が得られます。ただし、半径はボビンの半径ではなく、コイルの導線の中心部分まで、コイルの長さも両端の巻線の中心間距離と正確な値を計算・測定して代入してください。
2019/3/5追記
単位はMKSA単位系です。μ=μsμ0(比透磁率x真空中の透磁率)で、μ0=4π x 10-7[H/m]。μsは身の周りにある非磁性体は1として問題ありません。rとlの単位はメートル[m]です。cmを単位にすると計算がおかしくなります(分子にrが2回、分母にlが1回登場するからです)。本ページはこのサイトの中ではもっとも読まれているコンテンツのようですが、時々、「うまくいかない」とお問合せをいただきます。繰り返しになますが、基本に沿って忠実に計算し、作業を進めてください。ほぼ理論値通りに収まります(収まるはずです)。
コンデンサ
50オーム系同軸ケーブルの静電容量(C)は約100PF/m、75オーム系では約50pF/mです。50オーム系を使うと短くでき、また、1pF/cmなので計算が楽ですが、柔らかい・アルミテープによる2重シールドである・入手が容易であることを考慮して、私はBS放送受信用のS-4C-FBを使っています。なお、安価なものは網線の充填率が低いため、要注意です。もちろん太い方がFBです。共振回路のため高電圧がかかりますが、移動用であれば十分です。固定で200Wクラス用ということであれば、10Dクラスを使うべきでしょう(あるいは、それでも足りないかも)。後の調整のため、あらかじめ、計算された長さより長めにしておきます。
調整
給電部については、SWRアナライザやVNAで確認しながらコンデンサを切り詰めて共振周波数を目的周波数に追い込んでいきます。左の画像ではminiVNAを用いてLC回路の共振周波数を追い込んでいます。リアクタンス(Xs)分がゼロとなる周波数と純抵抗分(Rs)が最低となる周波数は必ずしも一致しないようですが、気にすることはありません。14M帯や21M帯用ではCWとSSB、どちらを重視するかに応じて共振周波数を追い込んでいくことも可能です。芯線と網線の接触を防ぐため、芯線・絶縁体より網線が多少短くなるようにしていきます。終了後、末端処理をしておきます。
UnUn
ハイインピーダンスで給電する電圧給電アンテナは回り込みに要注意といわれています。このため、給電部にUnUn(フロートバラン)を、入れました。トロイダルコアに1.5D HQ SuperをW1JR巻きし、給電部のわずかなスペースに収めました。
アンテナエレメント
これも、最初はビニルコードの単線を用いていましたが、ビーメックスに変えました。太い方が有利ですが、重くなるのと、価格が高くなるので、0.75SQを2本より合わせて使っています。ただ、ポリエチレンは堅いため、収納時の取り回しは、多少手間がかかります。ちなみにポリエチレンは誘電率は低いためだからだと思いますが、変えた後、エレメントの長さを長くする必要があり、より半波長に近づきました。
特性
VNAでPort Extensionを設定して、18M帯用のアンテナのインピーダンスを給電部で測定した結果が左図です。
17.7Mあたりで共振しており、SWRはほぼ1です。18M帯のアマチュアバンドでも実用上問題ありません。
完成形(18M帯用)
給電部。右にアンテナワイヤ、左に同軸ケーブルを接続。直径約45mm、長さ約160mm。38mm径グラスファイバーボビンにビーメックス2SQを10回巻き、コンデンサはS-4C-FBが約31cm(芯線と網線が重なる部分)。
アンテナワイヤ。給電部との機械的接続にはM型コネクタを使っている。実際に接続するのは芯線のみ。長さは7.5mとなっている。半波長の91%
運用結果
その後、14M帯用も作成し、河川敷の堤防の上でSpiderbeamの12m長のポールに添わせる形で設置し、運用しています。最初の写真にもある通り、ノンラジアルでアンテナ下端から給電するため、見た目スッキリで架設・撤去も早くできます。懸念していた回り込みもなく、リグの動作異常やコネクタに触れた際に"パチッ"とくることもありません。
下にQSOできたエンティティを図示します。カリブ、西アフリカなどとの実績があります。このEFHWAの最大の成果は2012年のマルペロ島(HK0/M)のDXペディションで、ロングパスのパイルを抜いてQSOできたことです。
P.S.
一連のEFHWAの製作でわかったことは、HF帯ぐらいであれば、高周波特性のよいものを使えば、アマチュアの自作といえど、ほぼ理論値通りのものが得られ、理論値通りに動作するということです。
一連の成果に気をよくし、10M帯の短縮タイプも自作しました。作ったのち、いつも運用している河川敷にて組み立てて特性を測定すると、10.1Mで見事にSWRが落ちます。そのまま、聞こえていた海外局のパイルに参戦、ゲットして帰宅といったこともありました。
今後
給電部の回路を見る限り、どうもアンテナが高周波的に浮いているように思える(UnUnで切り離しているため)。図のLの下にカウンタポイズとしてランダムワイヤを取り付けてみようかと思っています。